津田岳宏の事務所

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2012年12月 2日 (日)

競馬税金裁判~外れ馬券は必要経費!?~

競馬でケタ外れの大金を稼いだ男性が、それを申告しなかったとして脱税で起訴され、話題になっている。

報道によると、男性は、競馬ソフトを使って独自の必勝法を開発。2007年~2009年の3年間で約28億7000万円の馬券を購入し、約30億1000万円の払戻を受け、約1億4000万円も勝ったのだという。
悪魔に魅入られたように外れ馬券ばかり買ってしまう私としては、その必勝法に興味しんしんだが、今回男性は、脱税で起訴されてしまった。
しかも、国税局は、「当たり馬券の購入額」のみを経費と認定し、外れ馬券の購入額は経費とされなかったため、結論として、勝ち額の1億4000万円を大きく上回る5億7000万円が追徴課税された。
弁護側は、「外れ馬券も含めた購入総額が経費。一生かかっても払えない過大な課税は、違法無効だ」と主張しているのだという。


さてこの事件、宝くじの当選金が非課税であることとの均衡を考えると不公平にも思えるのだが、過去の判例にかんがみると、弁護側が勝つのは容易でない。


所得税法37条で、必要経費とは
当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」
とされている。

競馬の払戻の「直接に要した費用」とは、やはり、当たり馬券の購入額に尽きるだろう。
また、外れ馬券と当たり馬券に直接の関連性がない以上、外れ馬券の購入額を「所得を生ずべき業務について生じた費用」とも言い難い。

外れ馬券の購入額は、法律上、「損失」にあたる。
「損失」と「費用」は、これを区別するのが、判例の態度である。


むかし、ある個人事業者が、事業用の不動産を購入しようとして手付金を支払ったのだが、結局契約はご破算となり、手付金分の損失を被った。
彼は、その手付損失分を事業の必要経費として申告したのだが、国税局は認めず、裁判になった。
結果、裁判所は、

「手付金損失のごときものは、手付金返還請求権の喪失ということ以外に何らの意味をもたないのであるから、その喪失の理由がどうあろうとも、所得をもたらすための必要ないし有益な費用とはとうてい解せられない。」

と示して、彼の主張をしりぞけた(昭和42年9月14日名古屋高等裁判所判例)。

「損失」と「費用」は全然違いますよ、「損失」を所得から引いてはいけません、と断じた判例である。


ところが、これが法人だと違ってくる。

法人税法22条1項は、
「内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。」

と定めている。
法人の所得は「益金ー損金」、つまり、法人については、「損金(損失)」を所得から引くことが認められているのだ。
くだんの男性も、もし、法人を設立して、法人の事業として馬券を購入し利益を得ていたら、外れ馬券の購入額を「損金」として所得から引くことが認められ、勝ち額にのみ課税する処理をしてもらえたかもしれない。



個人事業者は損失を所得から引くことができない。しかし、法人ならできる。

上記の名古屋高等裁判所の事件では、その点が不公平だと主張された。
個人と法人で、手付金損失が所得から引かれるかどうかが違うのは、あまりにも不公平だと主張されたのである。

これに対し、裁判所は以下のように判断した。少し長くなるが、「裁判所」の判断スタイルがよく現れているので、そのまま掲載する。


本件手付金損失が、控訴人のいうように法人税法上損金に算入されることは首肯できる。
しかし、個人(自然人)の事業所得は「私経済の総合主体」である個人の総合所得の一環として把握され、したがつてそれは消費生活を予定することを要しない「私経済の部分主体」である法人の所得とは概念構成の上において自ら別個な考慮が払われているのであつて、その意味において所得税法
における事業所得計算上の必要経費を法人税法における損金と必ずしも同一に定め得ないのである。
すなわち、自然人と法人との間にすでに本質的な相異がある以上、その相異にもとづき所得税法
と法人法との間において事業所得の計算上の相異が生じたとしても、それは結局立法技術及び国の租税政策に由来するものというほかはない。 




裁判所は、個人と法人の扱いに違いがあったとしても、それは「立法技術及び国の租税政策」、つまり政治の問題であって、裁判所がとやかくいうことではない、と判断した。
個人と法人で不公平だからといって、個人事業者の手付金損失を所得から引くことを認めると、それは裁判所が独自のルールをつくることになってしまう。それはダメだ。ルールをつくるのは政治の役割なので、裁判所は政治に任せます、ということである。
要するに、三権分立からの配慮である。
パチンコが3店方式で合法とみなされているのに、テンゴの賭け麻雀が違法とされるのは不公平だ、といくら主張しても裁判所が認めてくれないのと同じである(麻雀裁判参照)。


 

弁護側は、競馬の勝ちは「一時所得」ではなく先物取引やFXと同様の「雑所得」である、という主張もしているようだ。
税法上、先物取引やFXによる所得は、得した額から損した額を引いた額、とされている。
だから、競馬の所得も先物取引やFXとパラレルに考えてくれ、という主張である。

たしかに、起訴された男性の買い方は、競馬ソフトや計算式を利用したシステムに基づき多数の馬券を購入して投資効率を高める、というものであり、男性のやっていたことは証券取引に類似する。

ただ、日々変動する相場を前提にした証券取引と、個別のレースの結果を予想する競馬とでは、賭博としての本質に大きな差異がある。
競馬と証券取引をパラレルに考えてくれ、という主張もちょっと厳しいかもしれない。

以下は本筋とは少し離れた話。


この事件を題材にしたブログなどを見ると、当たり馬券の払戻にだけ課税されるなんてことになれば競馬ファンが減る、競馬を守るためにも外れ馬券を経費として認めた方がいい、という論調をよく見かける。

たしかにそれも一理あると思うが、男性のような買い方で勝つことを全肯定するのは、それはそれで問題だ。

男性のやり方の詳細は分からないが、計算式を使っているということなので、おそらくは数学理論を用いているのだろう。
数年前に競馬の勝ち160億円を脱税して話題になった香港の投資会社のやり方と類似しているのかもしれない。

ギャンブルの結果は”偶然”でないといけない。
いつも誰かが勝っていつも誰かが負ける、という”必然”の場になると、客は離れギャンブル場は崩壊する。

ギャンブルは確率論がからむので、数学を用いて必勝法をつくれる場合がある。
しかし、その必勝法は、ギャンブル場が成り立つ前提を壊すので、胴元は認めない。
たとえば、ブラックジャックの必勝法である”カウンティング”を道具を使っておこなうことは、ラスベガスでも禁止されている。
必勝法はイカサマではないが、ギャンブル成立の前提を破壊する点でイカサマと同じなので、禁止されるのである。

この先もしも、男性がしていたような、数学を利用したシステムで多数の馬券を勝って投資効率を高める、という人が大勢になれば、そういう人ばかり勝つようになり、新聞とにらめっこして一生懸命予想する一般の競馬ファンはまったく勝てなくなる。結果、競馬はギャンブル場として成立しなくなり、一般の競馬ファンは離れ、競馬自体が崩壊する、というストーリーも考えられるのである。

男性への判決はさておき、競馬というギャンブル場を守るために、たとえば「同一人の1レースあたりの購入点数を制限する」など、数学を使った必勝法への対策を考えないといけないのかもしれない。


さて、最後は念のため。


くだんの事件報道を受け、雀荘のゲーム代は必要経費になるのか?なんて疑問を持った人。
麻雀の勝ちを申告しなかったとしても、追徴課税の心配はありません。
ただし、国家権力がその気になれば、麻雀の勝ちは「犯罪組成物件」として全額没収されますw

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